「これから共に大きな場所に行こう」三上ちさこ インストアライブレポート

三上ちさこ インストアライブ

三上ちさこの13年ぶりのニュー・アルバム 『I AM Ready!』発売記念インストアライヴである。
筆者が三上のライヴを見るのは何年ぶりだろうか。fra-foa時代以来だから、最後に見てから少なく見積もっても15年以上はたっている。開演を待ちながら、おぼろげに残るその頃の三上の姿を思い起こそうとしていた。

定刻を5分ほど過ぎたあたりでSEが鳴り、メンバーが登場する。
上田健司(b)、松原’マツキチ’寛(Ds)、akkin(G)、近谷直之(Manupirator)、そして三上(vo)という布陣である。オープニングはアルバムの2曲目に収められたアッパーで開放的な「Ride on the Beetle!」だ。
マニピュレーターがホーンなどの上モノの音源を鳴らすが、それが全体の音を支配することはなく、あくまでも主体はギターベースドラムというベーシックなロック・トリオの音だ。アルバムよりもはるかにマッシヴでパワフルなバンド・サウンドをバックに、いきなり三上はぴょんぴょんと跳びはね、手拍子をとりながらアジテートし、客を激しく煽る。なるほど本人がインタビューなどで言う通り、こんな「熱い」振る舞いはfra-foa時代には考えられなかったろう。しかし楽曲のポジティヴなメッセージと開放的なR&B調の楽曲には、そんなパフォーマンスが相応しい。「僕ら長い時間 別々の道 歩いてたけど また出逢えたのさ」という歌詞は、三上自身と、かつてのファンとの関係性にもなぞらえることもできる。諦めずに音楽を続けていたからこそ、13年ぶりに表舞台に戻ってこれたからこそ、こうして再びオーディエンスと繋がることができた。そんな喜びと、これからも目の前の友と共に生きていこうと思い定めた彼女の意思が、このオープニングに込められていたように思えた。

三上ちさこ インストアライブ

三上の歌はパワフルにしてエネルギッシュ。喉が強いのだろう。か細いカラダから発せられる伸びやかな歌声は強力だ。決して圧倒的な歌唱力で聞き手をねじ伏せるようなタイプの歌手ではなく、限界ギリギリのシャウトは時に危うくも聞こえるが、その揺らぎが人間的だ。熱のこもったひたむきな姿勢と、歌に込められた念の強さ、思いの深さが、彼女の歌に強い説得力を与えている。インストアの短い時間だからペース配分など考えなくてもいいということだろうが、大丈夫かと心配になるほどの、終始緩むことのない全力投球のステージは、このライヴ、この瞬間に賭ける彼女の意気込みを強く感じさせた。

三上ちさこ インストアライブ
三上ちさこ インストアライブ

ショートヘア、折れそうに細いカラダを躍動させながら歌う三上は時に少年のように映る。彼女の歌詞には「僕」「君」という少年的な代名詞が頻繁に登場する代わり、「わたし」「あなた」といった、女性性を表す記号としての一、二人称はあまり登場しない。それはfra-foa時代からそうだった。好いた惚れたのラブソングも、男女の情念も性愛も彼女の歌のメインとは言えない。だがそのぶん、「Anti Star」で「君は、素晴らしいんだ」と歌われるように、「Parade for Deatruction」で「大丈夫 君ならできる」と歌われるように、彼女の歌はジェンダーを超えて聴く者に等しくアピールし、力を与えることができる。それはライヴを見て、はっきりとわかった。

三上はMCで、星の数ほどもある音楽の中から自分の音を選んでくれたことへの感謝を述べ、これから共に大きな場所に行こうと観客に語りかける。そのとき、今日のこの日は彼女にとって「復活」でも「復帰」でも「過去の延長」でも「過去の清算」でもなく、まったくのゼロからの新たな出発の、そのスタートラインであり、この日の観客はその貴重な現場に立ち会ったのだと気づいた。
fra-fraでデビューして20年。決して若いとは言えない年齢に差し掛かって、彼女はまるで10代の若者のような熱でもって「ここよりも大きくて解放された場所」への欲望を語るのである。それはかつてfra-foaで世を拗ねたような素振りを見せていた彼女からは決してうかがえないものだった。
アンコールも含めたった6曲、40分にも満たないライヴ。だがその燃焼度がいかに高かったかは、終わったあとの三上の表情が物語っていた。ここから全てが始まるのである。
三上ちさこ インストアライブ
三上ちさこ インストアライブ

 

撮影:鈴木千佳


《2019年ワンマンライブ・ツアー “I AM Ready! TOUR”》

2月10日(日)名古屋 ell.FITS ALL
2月11日(月・祝)梅田シャングリラ
2月23日(土)仙台 HooK
3月2日(土)下北沢 GARDEN

開場:16:00/開演:17:00
料金:全自由¥5,000-(税込)※整理番号順入場 ※ドリンク代別途必要

受付URL:http://l-tike.com/mikamichisako

《リリース情報》
『I AM Ready!』
SLIDE SUNSET:SSSA-1002
2018年11月28日発売